鯨と羊とおおいなる猫

草を食むように、文字をならべます

青磁の宝剣

今は昔、

都から遥か東、海に臨む江南の地にある市があった。

宋の国においても大きな港であったここには東西より数多の商人が遠来する。

そんな港市の一角に、ある鋳掛屋を営む男がいた。

名を張尚と言い、勤倹質素の生活をするしがない、いち職人であった。

だが彼にはあることについて無二の技を身につけていた。

それは青磁の加工である。

父母が戦火にのまれ亡くなった幼き折、ある青磁職人に拾われた。

張尚が十五の歳に達したころ、また職人も赤痢で死んでしまった。

しかし、幼子にして窯を任されていたことか、はたまた彼の秘めたる才か、

彼は忽ち絶技とも称された技を習得し、職人を手伝った。

もとより名が高いこともあって、青磁神童は大きな噂になり、店は繁盛した。

だが、張尚が十四の頃に国が大凶作に見舞われ、貿易は滞ってしまう。

職人、それにあわせ張尚は青磁の加工では有名であったが、職人は頑迷固陋。

どれだけ周囲の善人が鋳掛や研磨などを仕事にするよう勧めても職人は認めない。

そうして死んでしまった。闇市の犬肉が災いしたらしい。

この一件以来、張尚は鋳掛を始め、もとの青磁には全く手を出さなくなった。

そして明朗だった張尚も、人が変わり物言わずで頑固とし、仕事のほかは人と関わりを絶ってしまった。

 

つづくかもしれない

これはまったくのフィクションです。